恩は仇で返せ!!

 

恩は仇で返せ!!

 

 

 

 臥薪嘗胆。リベンジの執念はこうして保たれた。

 

 質は違うが、一途な夢にも執念に近いエネルギーを必要とする。野球を封印せざるを得なかった浪人時代、怪我に泣いた早稲田での二年間、挫折の魔の手が忍び寄ってもおかしくない時期を、江尻はどうやって夢を繋いで来たのだろうか。

 

 「そんな大袈裟なもんじゃないっすよ」

と言う答えが返ってきそうだが、ちょうど10年前、浪人1年目の7月、巨人軍の取材で東京ドームに伴った折の光景を胸に刻んでくれていたら嬉しい限りである。

 

 5月21日、セパ交流戦対巨人2回戦、東京ドーム。公式戦では初めてのマウンドである。ジーパン姿で訪れた10年前に、プロのユニフォームを着て同じドームのグラウンドに立つことを、江尻は果たして想像出来たのだろうか。野球人生の夢を繋いでくれた巨人軍と東京ドームに、その思いはひとしおだったはずだ。

 

 1回裏、1アウトランナー2塁・3塁で4番小久保を迎える。かなり厳しいインコースのストレートをレフト線に弾き返され、あっさり2点を奪われた。更に5番清原のレフト前ヒットと6番齋藤のレフト犠牲フライで3点目を献上、自軍が先制攻撃でゲットした大量4点を風前の灯にしてしまった。

 

 2回裏は何とか0に押さえる。3回裏、この回先頭の4番小久保に2打席連続の2ベースヒットを浴びてしまう。5番清原の打席でキャッチャー實松が何でもないボールを後逸してランナーは3塁へ。気を取り直して清原を三振に打ち取るも、6番齋藤のレフト犠牲フライで、ゲームを振り出しに戻してしまった。

 

 何がどう悪いと言う訳ではなく、展開に呑まれたように江尻はずるずると失点を重ねる。4回裏、9番仁志の2ベースヒットと2番二岡のレフト前ヒットで、巨人はあっさり逆転に成功。更に、2アウトランナー1塁で、バッターは4番の小久保。真ん中高め内角寄りのカーブをレフトスタンドに文句無しの2ランホームラン。江尻がグラブをマウンドに叩きつけ怒りを露にした。西武カブレラに満塁弾を浴びた時は冷静さを装ってマウンドにしっかりと立っていたのに、巨人戦はそれ程違うと言うことか。

 

 続く5番清原には、厳しい内角攻めが裏目に出てデッドボールを与えてしまう。 1塁に向う清原。江尻を見詰めかえす炯炯とした眼光に、一瞬叱咤するかのような思いやりの眼差しが光った。

 

 4回ともたずに江尻は降板。この日は3回2/3を投げ、失点は今季ワーストの7点。実に無残な投球内容だった(負けが付かなかったことだけがせめてもの救いか)。

 

 江尻よ、君はブランドに負けてしまったのだ。人生の苦しい時期に、やさしい思い出を醸してくれた憧れのブランドに、皮肉にもしてやられてしまった。人一倍プライドの高いお前のことだから、自分を許せない気持ちはよく分かる。臥薪嘗胆の日々を過ごせ。プロならば、恩を仇で返すことが許される。

 

東北朝日プロダクション  斎藤 茂

 

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