消去法のヒーロー選び

 

消去法のヒーロー選び

 

 

  札幌ドームのマウンドは自分に入って行き易いと、江尻。観客との距離が気に入っているそうだ。球場の雰囲気に自分を乗せていくタイプではない。

 

 憧れの甲子園のマウンド、理想の投球を求めて集中力のバリアに入り込んでいく江尻には不向きだ。嫌が上にも観客と目線は合うし、その観客もドギツイ弥次を浴びせてくる。そして何より、あの地鳴りのような歓声が、内臓までをも揺さぶるド迫力で、グランド上の選手を押し潰しに掛かってくる。

 

 11連敗のビハインドに加え、タイガースの地の利をまともに受けての登板は、二枚目俳優が関西系お笑いの総本山に紛れ込むようなものだと、危惧していた。

 

 その江尻、6月12日、交流戦対阪神6回戦、甲子園のマウンドには無表情を引っ下げて現われた。連敗阻止を一身に背負った悲壮感は微塵もない。むしろ、悪い投球が続いたことで気持ちが吹っ切れていたようだ。

 

 3回まではパーフェクト。いい展開だ。

 

 4回裏、早稲田の後輩で、最も打たれたくない鳥谷に初ヒット(センター前)を許す。2アウト後、4番金本にフォアボール。そして、札幌ドームの対戦で2ランホームランを浴びている5番今岡。二敗目の黒星は今岡一人にしてやられたようなものだった。目下セリーグの打点王が、江尻の3球目・外角高目のストレートをレフト前に引っ張った。2塁ランナー鳥谷が俊足を飛ばして本塁に突っ込む。レフト小谷野の返球はワンバウンドのストライク。流れは江尻が掴んでいた。

 

 味方打線の援護で8対0とリードを貰った江尻。6回は、昨日の試合で6対1とリードを貰っていた先発正田が、突然崩れたイニングだ。6点のリードを守れなかった前回のドラゴンズ戦が頭をよぎってもおかしくない。

 

 9番関本に四球。そして伏兵中の伏兵・1番赤星に甲子園初本塁打(ライトスタンド)を運ばれて、あっけなく2点を献上だ。赤星の生涯本塁打はこれで3本。交通事故よりも、尚、低い確率が救いになって立ち直るかと思えば、さにあらず。3番シーツ・4番金本の連打でピンチを広げる。

 

 1アウト3塁・1塁、迎えるバッターは5番今岡。4回裏タイムリーヒットをフイにしているだけに目つきが違った。又もや判で押したように三遊間を破られる。3塁ランナーシーツが還って、この回3点目。プロ同士の対決にしては展開が淡白過ぎだった。

 

 5回1/3を投げて江尻降板。結果的に5勝目を上げられたが、内容的にはノックアウトされた前回のドラゴンズ戦と何ら変わるところはなかった。

 

 7回3点が、先発投手に与えられる許容範囲だ。この試合を含め過去4試合の内容は、3回2/3・7失点、2回1/3・5失点、4回1/3・3失点、5回1/3・3失点。贔屓目に見て上向きか。江尻のヒーローインタビュー、やや盛り上りに欠けた。

 

東北朝日プロダクション  斎藤 茂

 

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